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help リーダーに追加 RSS 猫と針

<<   作成日時 : 2007/09/07 08:11   >>

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人はその場にいない人の話をする






 8月23日。
 六本木俳優座劇場にて観劇。
 最後列ほぼセンター。

 普段のキャラメルボックスは、音楽ドカーンと大音量という舞台が多いですが、
今回は全然違う。音楽だけでなく、役者さんの身の構えからして違いました。
 今年初のキャラメルは、「キャラメルボックスのダークサイド」(by脚本家)であり、
「塩キャラメル」(by演出家)。
 その言葉に、偽りなしでした。
 冒頭の言葉は、舞台のコピーです。耳にしても、なんてことのない言葉。
 この言葉に、どきりとした人にとっては、何か後ろめたいことがあるのかもしれません。

 「人はその場にいない人の話をする」、けれど、その場にいる人の話もするわけで、
「その場にいない」ことを特別言い立てるのは、それこそその行為に隠された意図がある証拠。
 「その場にいない人の話をする」ことに陰口めいたところ、アンフェアなところを
匂わせる、このコピー。「猫と針」というタイトルの「針」はこれなのか…。
 (それに、「人は」なんて切り出すところが、ずるい表現です。
 その言葉を目にした全員を、当事者にしてしまおうという魂胆か。
 コピーとしては成功、でも個人的には日常会話で使いたくない表現です。)

 内容に触れながら書いてしまいますので、これから観劇予定の方はご注意を。



 
 
 まず、BGMがチェロの生演奏というのは、贅沢でした。
 派手ではなく、張りつめてもいて、それでも余白を残して緊張させ過ぎない。

 小説家・恩田陸さんの初戯曲ということで、小説を読んでいるような気分がしてくる舞台でした。
 前説はあるのだろうと思っていたらなかったので、開演してからの空気感がキャラメルの
公演とは全然違って新鮮でした。「猫と針」は前説がない方が、いい雰囲気ですね。

 冒頭から、あまりにも自然体に、フラットに、会話が始まり、とりとめなく続き、少し驚きました。
 でも、ミステリーと聞いていたので、そんな会話にも伏線があるのかも…と耳をすます。
 祝という名字の人が、香典を書く時にどうするか。ひらがなで「いわい」と書くのだとか。
 珍しい名字好きなわたしには、なかなかぐっとくる出だし。
 
 高校時代の同級生の葬式帰り。
 5人は三十路の大人(おそらく)。
  映画監督の女性。建築会社に勤める男性。妻を自殺で亡くした男性。翌日に裁判を控えた男性。亡くなったオギワラから借金をしたことのある女性。
 5人の背景と事件の内容が、セリフの重なりからだんだんわかってくるおもしろさ。
 舞台上でも、5人もまたそれぞれに新たに相手の一面を知って、それぞれに
思惑が絡み合うおもしろさ。
 これはもっと、長期間で全国で上演して欲しい舞台でした。

 妻が自殺で亡くなったとき、「あいつにしては上出来な死に方だった」と語る夫の
台詞と、それを話す役者のリアリティーが凄いなと、個人的に印象に残りました。

 顕在化する悪意や殺意は、氷山の一角でしかないことに気付かせて、
観客をヒヤリと包む。
 人々の底にひそむ悪意や殺意が、禍々しく輪郭のはっきりしたものなら、
その人自身ある程度セーブしやすいでしょう。悪意や殺意をそれとして認識している
ということは、自分を客観視できてもいるわけですから、対策も立てられる。
 でも、自身の悪意や殺意が漠然としていて掴みにくく、一見おとなしそうにしている場合、
油断して、気付かぬうちに浸食されて事件を起こしていたりしないだろうか。
 悪意に対する甘さが、自分・他人を裏切るような出来事を生みだしていく…。
 劇が進む中で、そんな悪意と殺意の仕掛けについて、思いをめぐらしていました。
 殺人事件が起こると、犯人は報道によって悪意や殺意に満ちた人物に仕立てあげられることがあります。
 事件を起こしうる動機が、犯人の心に疑いなく見られるように書かれます。
 しかし果たして、動機を犯人は明確に自覚しているのだろうか。(「殺人事件」と一括りにして話すのは無茶なのですが。)
 動機は、第三者が「それがあなたの動機です。」と判断するまで、犯人自身には理解できない
場合もあるのではないか。

 客席の第三者たちは、いろいろに動機の可能性を探ったでしょう。

 この劇は、誰かと観に行くのがいい。一人で観たのでは、もったいない!
 なぜなら、劇の感想、自分の推理を終演後に誰かと語り合うのがとっても楽しかったのです。

 プロデューサーの岡田達也さん。よい作品をありがとうございました。

 坂口理恵さん、気さくだけれど小心者な女性を演じられていて、今回は目の動きで彼女の心情を
推し量りながら観劇しました。時々鋭い目力があり、どきっとさせられました。

 前田綾さん、わたしにとって今回一番目が離せない存在でした。独特の「間」に魅せられました。

 石原善暢さん、冷めていて孤独な男性でしたが、奥に臆病さが見え隠れして、
不安定なかっこよさがありました。うん、スマートだなぁと思いました。

 久保田浩さん、抜けているように見えて抜け目ない人。5人の中で最も観察者的であろうとしている感じが、ストイックで良かったです。ボイスレコーダーを意識し過ぎるシーンが、大好きです。わたしもあの場にいたら、絶対意識してしまう。


 レビューを検索したところ、たくさん見つかったのですが、目を通してみて個人的に興味深く読ませていただいたブログに、トラックバックさせていただきます。

こんなことを思ったり。:http://blog.goo.ne.jp/b_blitzuk/e/204e3b3d37d11c6669c5887ae85e0dd9

私的アルカロイド:http://orangealkaloid96.blog56.fc2.com/blog-entry-205.html

fine days: http://blog.so-net.ne.jp/finedays/2007-09-06

MayFestival:http://blog.livedoor.jp/maia_10/archives/51077009.html

うめみん岳谷鈴女ブログ :http://blog.goo.ne.jp/umemin2005/e/4c44f6fd2497a1914d66e7722690c0ec

ねこ道交差点:http://nekomichi.air-nifty.com/blog/2007/09/post_9516.html

One step up,Two step back:http://d.hatena.ne.jp/ike3/20070902/1188911844

つらつら:http://seaeeeeeeeel.blog106.fc2.com/blog-entry-737.html

有栖川探偵小説事務所の事件録:http://d.hatena.ne.jp/liho/20070904/1188875101

オレンジと黄緑:http://orangreen.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_acd1.html

芝居遊歴控:http://lavender.cocolog-nifty.com/stage/2007/08/post_46be.html


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
初めまして、ねこ道交差点のあぎと申します。トラックバック、どうもありがとうございました。
長らくお休みしていて久しぶりに再起動したブログなので、早速TB頂いてとても嬉しかったです。

「猫と針」は確かに、見る人がどの部分に着目するかで、その印象が大きく変わってしまうお芝居だったと思います。ネットで様々な方の着眼点と感想を見て回るのも、面白いですね。
東京公演は終了ですが、福岡でもっと進化しそうな、楽しみなお芝居です。
あぎ
URL
2007/09/11 23:16
あぎさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
こちらの返信が遅くなり、本当に申し訳ありません。

今までのキャラメルボックスにはない、曖昧で暗い感情の交錯が描かれていて、夏にもってこいなぞくぞくする舞台でした。いろいろな人の感想が読んだり、一緒に観た人の感想を聴くことも楽しみに思える、二度美味しい作品に思えました。曖昧な結末に不満が残るという声に、「たしかに」と思いつつ、曖昧なままな不気味さの余韻が、この作品の持ち味に思えてきました。福岡での進化、加藤さんのブログ等で報告はあるのでしょうか。楽しみです。

2007/09/18 11:25
トラックバックありがとうございます。
いやこれはもう、恩田陸の世界です。
最新小説をたまたま舞台で見ました、と。

が、話し言葉としてうまく使ってるなあ、と。
芝居好きの方が書くと、こうなるんだわあという一作でした。
うめみん
2007/10/01 07:58
うめみんさん、コメントありがとうございます!
加藤さんのブログで、恩田陸さんのお姿を初めて拝見しました。
真柴さんと似た雰囲気の作家さんなのだなぁと思いました。

恩田陸さんの小説は未体験なので、これをきっかけに読み始めたいと
思います。(一番気になっているのは『夜のピクニック』です。)
「恩田陸の世界」の入り口となったのが、『猫と針』というのは
ちょっと邪道な気がするのですが、そんな脇道(?)から奥へと
進んで行きたいと思います。

2007/10/05 00:18

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